カテゴリ: ICT法務  タイトル: ハンドルネームによる被告の特定
更新2017-07-29 16:39:57

民事訴訟法133条1項は、「訴えの提起は、訴状を裁判所に提出してしなければならない」と定め、同条2項は以下のとおり定めます。

訴状には、次に掲げる事項を記載しなければならない。

一  当事者及び法定代理人
二  請求の趣旨及び原因

この当事者の特定について、平成21年12月25日東京高裁判決(平21(ネ)4242号損害賠償請求控訴事件)は、「民事訴訟の当事者は,判決の名宛人として判決の効力を受ける者であるから,他の者と識別することができる程度に特定する必要がある。自然人である当事者は,氏名及び住所によって特定するのが通常であるが,氏名は,通称や芸名などでもよく,現住所が判明しないときは,居所又は最後の住所等によって特定することも許されるものと解される」と判示し、必ずしも実名や、現住所で当事者を特定する必要があるとは述べていません。

ただし、通称や芸名は一定程度社会に浸透しているものである必要があり、単に適当につけられたハンドルネームはこれに当たらないという判断も十分に想定されるところです。したがって、被告の特定をハンドルネームだけで行い、住所も居所も判明していないような場合は、民事訴訟法133条2項1号の必要的記載がないものとして、訴訟は却下されるのが原則と言えそうです。

しかし、当事者の特定は「民事訴訟の当事者は,判決の名宛人として判決の効力を受ける者であるから,他の者と識別することができる程度に特定する必要がある」ところ、この特定は、必ずしも訴訟提起の際に必要となるわけではありません。すなわち、平成16年(ラ)第99号 訴状却下命令に対する即時抗告事件 (基本事件:富山地方裁判所平成16年(ワ)第315号)は、「被告の特定について困難な事情があり,原告である抗告人において,被告の特定につき可及的努力を行っていると認められる例外的な場合には,訴状の被告の住所及び氏名の表示が上記のとおりであるからといって,上記の調査嘱託等をすることなく,直ちに訴状を却下することは許されないというべきである」と述べています。

このように、被告の特定が困難なインターネット上の訴訟においては、ハンドルネーム等知れる限りの情報において訴訟を提起し、そのうえで情報保有者に対して文書送付嘱託、文書提出命令などを申し立てることも、理論上不可能とは言えないとも考えられます。

もっとも、文書送付嘱託、文書提出命令などを申立てても、被告を他の者と識別することができる程度に特定出来ない場合は訴状却下ということになるでしょう。

また、ハンドルネームなどで被告を特定するとしても、その前に発信者情報開示や弁護士会照会など出来る手段は尽くし、知れる限りの情報で被告を特定しているが条件となりそうです。

ハンドルネームにも本名に近いものや、まったく場当たり的なものなどもあることから、そのハンドルネームの性質も全く影響がないわけではないと考えられます。
結論としては、ハンドルネームで被告を特定することは余程著名で社会的に浸透し、そのハンドルネームから社会一般に特定の人物が想起されるような例外的な場合のみに許容されるものの、他の手段を尽くしてもハンドルネームしか判明しない場合は、訴訟提起の材料として訴状などに記載して訴訟上でしか利用できない手段によって被告の特定を行う手段とすることは、理論上不可能とは言えない、というのが結論と言えそうです。

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