カテゴリ: ICT法務  タイトル: 発信者情報開示請求の要件
更新2017-08-02 12:46:25

発信者情報開示請求の要件

特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(プロバイダ責任制限法、プロ責法)4条1項は、発信者情報開示請求権について、定めます。

プロバイダ責任制限法4条1項に定められた発信者情報開示請求は、下記の条件を満たした時に初めて認められることになります。

①請求者と被請求者
ア 請求者
請求主体が、「特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害された」者であること。

イ 被請求者
被請求者が、特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害された際に利用される等した特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者(開示関係役務提供者。)であること。

②権利侵害及び正当理由
ア 「特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害され」(プロ責法4条1項柱書)「権利が侵害されたことが明らかである(プロ責法4条1項1号)こと。すなわちⅰ「特定電気通信による情報の流通があったこと」、ⅱ「請求者に対する明らかな権利侵害があること」、ⅲ「ⅰとⅱの間に(直接的な)因果関係があること(ⅰによってⅱが直接完結していること。)」。
イ 損害賠償請求権の行使のために必要である場合その他発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があること(プロ責法4条1項2号)。

③請求の客体となる情報の性質
開示される情報が、氏名、住所その他の侵害情報の発信者の特定に資する情報であって総務省令で定めるもの(発信者情報)に該当すること。

 
特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律第四条第一項の発信者情報を定める省令


特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律第四条第一項 に規定する侵害情報の発信者の特定に資する情報であって総務省令で定めるものは、次のとおりとする。

一  発信者その他侵害情報の送信に係る者の氏名又は名称

二  発信者その他侵害情報の送信に係る者の住所

三  発信者の電子メールアドレス(電子メールの利用者を識別するための文字、番号、記号その他の符号をいう。)

四  侵害情報に係るアイ・ピー・アドレス(電気通信事業法 (昭和五十九年法律第八十六号)第百六十四条第二項第三号 に規定するアイ・ピー・アドレスをいう。)及び当該アイ・ピー・アドレスと組み合わされたポート番号(インターネットに接続された電気通信設備(同法第二条第二号 に規定する電気通信設備をいう。以下同じ。)において通信に使用されるプログラムを識別するために割り当てられる番号をいう。)

五  侵害情報に係る携帯電話端末又はPHS端末(以下「携帯電話端末等」という。)からのインターネット接続サービス利用者識別符号(携帯電話端末等からのインターネット接続サービス(利用者の電気通信設備と接続される一端が無線により構成される端末系伝送路設備(端末設備(電気通信事業法第五十二条第一項 に規定する端末設備をいう。)又は自営電気通信設備(同法第七十条第一項 に規定する自営電気通信設備をいう。)と接続される伝送路設備をいう。)のうちその一端がブラウザを搭載した携帯電話端末等と接続されるもの及び当該ブラウザを用いてインターネットへの接続を可能とする電気通信役務(同法第二条第三号 に規定する電気通信役務をいう。)をいう。以下同じ。)の利用者をインターネットにおいて識別するために、当該サービスを提供する電気通信事業者(同法第二条第五号 に規定する電気通信事業者をいう。以下同じ。)により割り当てられる文字、番号、記号その他の符号であって、電気通信(同法第二条第一号 に規定する電気通信をいう。)により送信されるものをいう。以下同じ。)

六  侵害情報に係るSIMカード識別番号(携帯電話端末等からのインターネット接続サービスを提供する電気通信事業者との間で当該サービスの提供を内容とする契約を締結している者を特定するための情報を記録した電磁的記録媒体(電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。)に係る記録媒体をいい、携帯電話端末等に取り付けて用いるものに限る。)を識別するために割り当てられる番号をいう。以下同じ。)のうち、当該サービスにより送信されたもの

七  第四号のアイ・ピー・アドレスを割り当てられた電気通信設備、第五号の携帯電話端末等からのインターネット接続サービス利用者識別符号に係る携帯電話端末等又は前号のSIMカード識別番号(携帯電話端末等からのインターネット接続サービスにより送信されたものに限る。)に係る携帯電話端末等から開示関係役務提供者の用いる特定電気通信設備に侵害情報が送信された年月日及び時刻


情報の流通によって自己の権利を侵害されたこと

プロ責法は、情報の流通それ自体によって、権利が侵害された場合に限って発信者情報開示を請求できる法律であると解釈されています。つまり、情報の流通によって権利侵害が完結する場合が想定され、情報の流通が権利侵害の前提に過ぎない場合は、発信者情報開示の対象とならないと解釈されています。

下記の事案で、原告は映画の著作物の著作権者でした。発信者(と主張された者)はこの映画の著作物を無断複製したDVDをインターネットオークションに出品し、実際に販売されました。このとき、無断複製及びDVDの譲渡はインターネット外で行われました。すなわち、インターネットには無断複製情報は掲載されず、海賊版のDVD頒布も、郵送で行われインターネットは経由していません。発信者(と主張された者)は、インターネットにDVDの出品情報を記載したに過ぎない事案でした。このように、権利侵害情報自体ではなく、権利侵害を招来しにすぎない情報は、発信者情報に該当しないと判断した裁判例があります。

平成22年12月 7日東京地裁判決(平22(ワ)5406号 発信者情報開示請求事件)

プロバイダ責任制限法は,特定電気通信を通じた情報流通の拡大により,他人の権利利益を侵害するような情報の流通が問題となっているところ,特定電気通信による情報発信は,社会的,財政的に制約が少ないために,誰しもが反復継続して行うことが可能であり,また,不特定の者に対して情報発信が行われ,しかも高度の伝播性がある点で,他の情報流通手段と比較すると,他人の権利利益を侵害する情報の発信が容易であり,いったん被害が生じた場合には,被害が際限なく拡大していくという特質を有しているなどといった事情があり,特定電気通信による情報の流通によって被害を受けた者が特定電気通信役務提供者から発信者情報の開示を受ける必要性が高いが,他方,発信者情報は,発信者のプライバシー及び匿名表現の自由,場合によっては通信の秘密として保護されるべき情報であることから,正当な理由もないのに発信者の意に反して情報の開示がなされることがあってはならないことは当然であるとの認識に立って,「特定電気通信による情報の流通によって権利の侵害があった場合」の「発信者情報の開示を請求する権利」(プロバイダ責任制限法1条参照)として,発信者情報の開示制度を定めているものと解される(同法4条)。このため,発信者情報の開示を請求することができる者は,「特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者」に限定され,権利を侵害したとする情報(同法3条2項2号)であるところの「侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであるとき」など,プロバイダ責任制限法4条1項所定の要件を満たした場合にのみ,発信者の氏名又は名称,住所,電子メールアドレス等の発信者情報(プロバイダ責任制限法4条1項,特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律第四条第一項の発信者情報を定める省令)の開示を請求することができることとされている。
 このようなプロバイダ責任制限法の立法の経緯及び文言からすると,プロバイダ責任制限法4条1項の規定によって発信者情報の開示請求が認められるためには,特定電気通信によって流通する情報がそれ自体で被害者の権利を侵害するものであることが必要であると解するのが相当である。
 この点に関し,原告は,情報の流通と権利侵害との間に相当因果関係がある場合も「情報の流通によって」に該当すると解すべきであるなどと主張するが,その趣旨が,特定電気通信によって流通する情報がそれ自体で被害者の権利を侵害するもの(侵害情報)ではなくても発信者情報の開示請求の対象となるべきであるというものであるならば,プロバイダ責任制限法の立法の経緯及び文言に反する解釈であり,到底採用することはできない。 

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